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みなさまへ ― 労働者協同組合法が成立しました

何度“法制化前夜”と仲間に呼びかけただろう。今度こそと自らを鼓舞しただろう。この数カ月は、“今回は必ず成る”と信じて社会に発信しながら、仲間たちと祈るような気持ちで日々を過ごし、市民発の法律が本当に成立の時を迎えた。亡くなられた大内力先生(東京大学名誉教授)、笹森清さん(元連合会長)、先頭に立ってくださった桝屋敬悟先生をはじめ、労働者協同組合法が新しい社会をつくる希望の力を生み出すことに期待をし、我が事としてご尽力くださった全ての皆さんの力の、どの一つが欠けてもなし得なかった奇跡なのだと思う。本当に感謝の気持ちでいっぱいだ。

法制化市民会議初代会長の大内先生は、「労働することは生きるため、社会の発展のためと同時に、それぞれの人の人生の実現、人格の完成であるという社会体制をどう作っていくかが21世紀の歴史的課題」と語られた。そのことへの働く者・市民の本格的な挑戦の時代が今、幕を開けた。

また、利用者や地域を思う現場の仲間たちの「よい仕事」と、協同労働の実感を生き生きと語る姿が、法制定に関わる人々の心を動かし、本気にさせた。「ないならつくっちゃえ」「やりたいことに挑戦できる」「地域の願いをかなえられる」「自己責任ではなく、みんなと話し合ってつくり出せる」「安心して自分が出せ、力を生かすことができる」…。特にひきこもりや生きづらさを抱えた若者たちが、安心して弱さを出せ、お互いを認め合う働き方を通して、自分への信頼と生きる力を回復し、地域の支え手として活躍する姿が胸を打った。住民たちもいつしか仲間となり、挑戦の意欲を高め、協同労働が触媒となって地域から新しい活力が生まれている。

「協同労働とは何か」を真摯に問い続け、仲間と本音で話し合える協同の関係を築くことに格闘しながら、仲間には力があるということ、地域には力があるということ、信じ合える環境にあればどんな人もその力を発揮できる存在なのだということを、いくつもの実践から示してくれた全国の仲間たちを、心から誇りに思う。そして道半ばで亡くなられた多くの仲間も含めて、その力の総和で法制化を実現できたことを、みんなで心から喜び合いたい。

コロナ禍によって社会の脆弱さがあらわになり、人間とは何か、社会とは何かという根源が、私たちに問われている。新型コロナウィルスの感染拡大は地球環境の変化と無縁ではない。人間が自然や生き物の一部であることを自覚し、命か経済かではなく、命を守り育むための経済の新しいあり方を地域から市民の手で創造することに、本格的に役割を果たしていきたい。そのために守るべき仕事、起こすべき仕事は無数にある。

コロナ禍の中で今、失業や困窮、孤立の中にある人たちに、協同労働という希望を届けたい。東日本大震災が起きた時、私たちは最も困難な地に身をおいて、地域の人々に協同労働を届け、共に汗を流し歩んでいくことを決意し、東北復興本部を設置した。そして困難の中から立ち上がる仲間たちや住民の姿から、“地域の底から社会をつくる”という協同労働の価値と可能性を教えられた。

法制化を実現した今、まずは全ての事業所が、困りごとの相談や地域の願いを受けとめる地域の居場所「みんなのおうち」の看板をしっかりと掲げよう。そして今、最も困難の中にある人たちとつながって、地域の力で受けとめていこう。「決して一人じゃない。あなたは地域から必要とされている。あなた自身に立ち上がる力がある。だから一緒に道を切り拓こう」と心から伝えることから、労働者協同組合運動の新しい歴史の一歩を、みんなで踏み出したい。

2020年12月4日
日本労働者協同組合(ワーカーズコープ)連合会 センター事業団
理事長 田中 羊子

 

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